傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2022-01-01から1年間の記事一覧

敏感な世界に生きる鈍感なわたし

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。弊社ではリモートワークが定着し、勤務先の人々の顔を見る機会が減った。社内に物理的に存在する人間が少ないために、数少ない対面が密室化しやすくなった。そうして、その中で重大…

成長は自動で訪れない

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのために多くの学校でオンライン授業が導入されたが、わたしの勤め先の専門学校は比較的早く対面を再開した。 それでも学生たちの生活に影響が出ないはずはなく、休学や退学は増え…

やさしさの出力調整

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのために多くの学校でオンライン授業が導入されたが、わたしの勤め先の専門学校は比較的早く対面を再開した。実習なしには成り立たない分野であり、いわゆるエッセンシャルワーカ…

愛されずに育ったが、人生に支障はない

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。 ああ、人がいっぱい死ぬんだ。そう思った。 わたしは平凡な人間である。当たり前に大学を出て当たり前に働いている。 そうしてわたしは退屈していた。わたしは本を読みすぎたし、人…

推しのいない人生

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。それから二年半、メディアでフォーカスされた消費行動が「推し活」である。アイドルや演劇などの舞台をはじめとしたさまざまな趣味に熱中しお金や時間を使う人々について、おおむね…

通り魔と気が荒くてしつけがなってない犬

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのために、以前よりは近所で過ごすことが増えた。わたしは落ち着きのない人間で、疫病前は休みがあれば旅行に出ていたのである。 疫病流行の最初の年、運動不足を解消するためにジ…

死ににくい年代と死にやすい病気

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。いまだそのさなか、わたしはがんになった。 医者はいかにも隠しきれない、うきうきしたようすで、わたしにそのことを告げた。わたしは典型的な文系で、職業もマイナーな言語二カ国語…

見よ、わたしの伯母力を

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのためにホームパーティもだいぶ減ったのだが、二年半も経てば「そろそろいいのではないか」という感じになる。基準もなにもない、気分の問題だが、わたしが思うに大半の人間は気…

向上心の範疇

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのために人と気軽に会う機会がぐんと減り、代わりにインターネット上でのコミュニケーションが活発になった。たとえば学生時代のサークルのグループLINEがそうである。 以前はたい…

たんぱく質と平和と成熟

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。当初は自宅以外でのほとんどすべての室内活動がしにくかったけれど、しばらくするとジムは開くようになった。そうするとヒマだから運動しようという気にもなる。わたしはリモートワ…

泥団子をこねろ あるいは反「言語化ありがとうございます!」

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。異常と思われた状況も三年目、すでに日常である。この間、わたしの趣味用のSNSアカウントにいささかのフォロアーと肯定的なリプライがつくようになった。 趣味のドラマと映画とアー…

洗いたてのタオルのために

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。その後しばらくして増え、いまだ数を減らさないのが自殺である。逃げる道のない者が家に閉じこめられると死ぬ、とわたしは思う。そして寄付などする。 なぜするかといえば、わたしが…

マイ・イマジナリー・アキコ

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。それから今まで二年半のあいだ、わたしは何度か章子と顔を合わせた。でもそういえば、と章子は言った。「アキコ」の話はしてなかったよね。疫病からこっち、アキコはどうしてる? 章…

わたしのお姉ちゃん

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのために海外在住の姉は気軽に帰国しなくなった。「しょっちゅう行き来するのは不経済だしねえ」と姉は言う。そのこと自体はさみしく思わない。わたしも語学留学や夫の仕事の都合…

わたしの妹

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。わたしはその前から仕事の拠点を海外に置いていて、頻繁な帰国ができなくなった。そのためにこの三年ほどで妹との物理的な距離ができた。以前は何かというと会っていたのだ。 そうし…

ナナフシとモブと圧倒的美人

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのために弟は帰省を自粛していて、今年はじめて、お盆の時期は避けて両親の住む家に戻ってきた。わたしは両親と同じ関東に住んでいるから何度かこっそり帰省していて、だから両親…

ふたり狂い

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。それから半年でわたしの部下のひとりの様子がおかしくなった。部下といっても年次も近く、長年の友人でもあったから、わたしはたいそう心配した。でも彼はしだいにわたしの仕事を非…

いなくなったあの人のこと

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。それから二年半、わたしの会社からは何人かがいなくなった。転職や定年退職はカウントしていない。職場を変えるのではなく、ただ辞めた人の数である。 このところ疫病の感染状況はま…

疫病罹患日記

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。それから二年、夫が罹った。 夫は近所の病院に片っ端から電話をかけ、「うちでは無理ですが、○○医院ならあるいは。お約束はもちろんできませんが」「うちだとかなり待ちますし週末は…

あの人のこと好きだったのにな

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。家の中に人がいる時間が増え、それに連動して増えたもののひとつがDVの類である。統計上も増えているし、身のまわりでも話を聞く。今どきはボコボコに殴ると一発で終わるのか、精神…

さみしいと人はおかしくなるんだよ

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのために人と人が会う機会があきらかに減った。わたしはそれに危機感をおぼえ、人とのコミュニケーションの場や出会いの場を工夫して増やした。 友人が減ってもかまわない人もある…

ごはん作って待ってるからね

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。わたしの勤務先はいかにも日本的な大企業であり、歓送迎会や忘年会は疫病以降やめている。少人数での会食は暗黙の了解で会社から少し離れた場所でひっそりとする。 そんな中で年に二…

女のロマン

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのために趣味の旅行を控えてはや三年目、子どものために近場のあちこちに行ってもレジャー費として想定していた出費は温存されている。 わたしはお金のあれこれを考えるのがすごく…

夏の山

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのために子どもたちのレジャーも変化している。小学生の兄弟のいる友人夫妻に連絡してようすを聞いてみた。遠出はできないが毎週のように珍しい経験をさせてあげているらしい。「…

彼女のリゾート

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。彼女もその影響を受けて仕事をくびになった。一年前のことである。 彼女は高給取りで、夜景のきれいな湾岸のタワーマンションに住んでいた。くびになるとすぐに賃貸物件を探し、半蔵…

一人称が強すぎる

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのためにもっとも影響を受けたのが医療機関である。わたしは二年以上、いわゆる同居家族以外と私的に会うことをしなかった。 まじめだねえ、と友人が言う。二年のあいだに引っ越し…

腰痛のしくみ あるいは、我慢は努力ではない

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのためにもっとも影響を受けたのが医療機関である。わたしの職場は感染症とは直接関係しない科なのだが、それでもえらい目に遭った。長いこと、プライベートでは夫と子どもにしか…

マスクつけなきゃいけないんだよ

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのために娘の小学校生活はマスクや分散登校とともにはじまった。親は、それはそれは、それはもう、たいへんだった。疫病禍のほか、いわゆる小一の壁・小二の壁がある。わたしのま…

素直で笑顔で気がきいて

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのためにわたしの職場にもリモートワークが導入され、出社しても顔を合わせる会議は最低限になった。飲み会はもちろんない。そのためにわたしはしばらく水木さんにつかまらずにす…

彼女の誤りを聞きに行く

疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのためにわたしがこの友人に会うのは二年ぶりである。このたびはどうしても対面でこの人に話を聞いてもらいたくって、機会をつくった。 わたしはろくでもない家庭で育ち、家を出て…