傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2011-11-01から1ヶ月間の記事一覧

憎しみを捨てる

うちの男の子がねと彼女は言う。彼女には三歳の男の子がいるけれど、その子のことはそう呼ばない。武生がね、と言う。うちの女の子、というときも同じだ。彼女に娘はいない。うちの男の子がね、同期が結婚しちゃってつらいみたいで、ああその同期の女の子を…

マテリアルガール2011

結婚はいつしたいと訊くと二十六と彼女はこたえる。微塵の迷いもない。あとね、したいんじゃなくって、するの。そうつけ加える。いいねと私は言う。いいね、相変わらず、西村さんは、とても。彼女は上品にほほえみを返す。私は大学生のときに彼女の中学受験…

帰れない子ども

ちょっと任せる、と塩谷さんが言った。はあいと私はこたえ、キッチンの山畑さんが少し遅れて唱和した。私たちは三人で深夜のファミリーレストランを守っていた。私は十八だった。山畑さんは大学生のアルバイトで、塩谷さんは深夜メインの副店長。私はお客が…

返しのある針の傷

私は口をきわめて見も知らないその人を罵った。彼女はひっそりと笑い、そこまで言うほどたいしたことじゃないよと言った。でもありがとう。 私はコーヒーをのむ。コーヒーはいい香りがするから気持ちがささくれだっているときにはお酒よりコーヒーを選んだほ…

あなたの図々しい質問

それ三回目ですよと私は言った。うそうそと森先輩は言った。嘘じゃないですと私はこたえた。私が二年生のとき、講座に出入りしはじめてすぐと、先輩が卒業する直前、それから、今です。先輩は私と羽鳥さんの顔を見て、執念深いと言って、笑った。覚えてない…