傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2017-12-01から1ヶ月間の記事一覧

やさしさを集める

新聞を読む。正確には、めくる。読むのは一部だ。見出しに目をとめる。文章の全体を視界に入れる。二秒あれば自分に必要な記事かそうでないかがわかる。この作業をはじめて二年目、われながら手慣れたものだ。わたしはそれを読む。わたしははさみを手に取る…

マイノリティに科せられる罰金

マニュアルも前例も上長もあてにならないトラブルが生じたので先輩を訪ねた。先輩はわたしの切り札である。わたしより十ばかり年長の女性で、とても頭の切れるひとだ。無駄口をきかず無愛想でとっつきにくく、同じ部署の人によると、誰が居残っていても自分…

お父さんのUFO

わたしがそれを見たのは空の半ばを薄雲が覆う冬の夕方で、太陽の位置には雲がなくて、空は、今にして思えばたいそうみごとな、青と茜色のグラデーションをしていた。わたしは小学校五年生で、空の色に感興をおぼえるような心はまだなく、足下のブロックをで…

年末病の取り扱い

いつもと同じ時間に目が覚めた。死にたいと思った。それから、おお、来たな、と思った。 理由はわかっている。年末に決まって寝込む、その前哨戦のようなものである。年末年始というのは日本の家族の聖なる日なので、わたしのように生家と縁を切って故郷をま…