傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2012-12-01から1ヶ月間の記事一覧

弱者の様式

槙野さんは相変わらずサムライだなあと言って彼は笑った。私は最低限の愛想をいやいやながらに添加した顔を傾けた。私はこの人を好きではなかった。ふだんはたいした接点がなく、親しくもないのだから、崩れたことばを発すべきではない。そう思って、口を利…

その欠落を微分せよ

彼はそのとき彼の欲していたものを理解した。彼は自分のからだがそれをうしなっていかに緊張していたかを感知した。肩こりが治りそうだと彼は思った。世界に生きた人間がいると定期的に言い聞かせてやらないとたぶん僕はだめなんだ。 彼の結婚生活は六年で終…

墓荒らしの量刑

あなたは私に気を許してなんでも無防備に見せている、それが気持ちいいから私にはあなたのことがわかると誇示したかったんだと思う。彼女はそのように話す。とても醜い欲望だよ、許されないのも承知の上で私はそれに負けた。だからしかたがないんだよ。 彼女…

メンテナンスの日

奇数月の最後の日曜日、彼女は友だちにメールを送る。今日なにが食べたい。少し間を置いてそれは戻ってくる。ぱりぱりのパン。あとなんか酸っぱいもの。了解と彼女は書いて送る。友だちがたんぱく質の欲求に鈍いことを彼女は知っているので赤身の勝った牛肉…