傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2011-12-01から1ヶ月間の記事一覧

悪意の不在と引けない椅子

擦過音に振りかえると私のデスクの後ろの棚が取り除かれていた。取り除いているのは総務の伊元さんだった。伊元さんは長身でしっかりとした骨格を持ち、ひと一倍の腕力があるように見えるけれども、棚にはまだものが入っているし、動かしているのがひとりな…

巨人たちの都市

大きな駅から新幹線に乗り在来線に乗りもっと大きな駅の西側に出ると建物が急に大きくなって私は不安になる。見知ったはずの青梅街道が急に広くなる。空がとても遠い。私は巨大なビルディングのあいだを縫って無力なこびとのように走る。巨人の都市、と私は…

肯定供給機の反乱

彼女のほほえみには抜群の安定感があった。誰かにうなずいてみせることに関してキャリアを積んでいる笑顔。ええ、そうね、でももう、いいの。そのせりふはいかにも彼女のものらしかった。彼女は許容する、彼女は寛容でいる、彼女は忘れてあげる、あの人はや…

架空の拳

彼は彼女がソファにごく浅く腰掛けていること、その脚はすぐにでも立ち上がる準備ができていることを見て取った。彼は苦笑し、それから少しかなしくなり、それらを冗談でくるんでしまうために両手を広げ、軽く挙げてみせた。何もしない。彼がそう言うと、そ…