傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

見よ、わたしの伯母力を

 疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのためにホームパーティもだいぶ減ったのだが、二年半も経てば「そろそろいいのではないか」という感じになる。基準もなにもない、気分の問題だが、わたしが思うに大半の人間は気分で疫病対策をやっている。
 わたしがこのたび呼ばれたのは妹の家でのハロウィンパーティで、去年は妹家族とわたしだけでやったのだが、今年は大がかりにやることになった。子どもの参加者は総勢七名にのぼる。上の妹の子ひとり、下の妹の子ふたり(わたしたちは三姉妹である)、妹の友人の子ふたり、妹の家の近所の子ふたり。年齢は三歳から七歳まで。もはや保育所か学童である。

 妹から誘いのLINEが入った段階で、わたしは子どもたちの最近のハマりごとを尋ねた。子どもというのは移り気なものである。よく会っている妹の子でも確認する必要がある。
 妹は参加者の親全員にリサーチをかけ、結果をわたしに教えてくれた。ふむふむ、恐竜、虫、ディズニープリンセス、スパイファミリー、ドラゴンボールね。今の子は最新のアニメだけじゃなくて昔のにもはまるね。ポケモンはいない? 今たまたま全員ブームを脱している? 了解。
 わたしは近所のスーパーと百均とおかしのまちおかを行脚し、彼らの好きなものが描かれたパッケージの菓子を揃え、その他の菓子も仕入れた。それらをハロウィン模様の袋に詰め、彼らが好きな色のリボンをつける。わたしの家にはよく会う子どもたちが好きな色のリボンがひととおり揃っている。タブレットにはアニメをダウンロードしておく。

 当日、ご馳走をひととおり食べてはしゃぎまわった子どもたちが疲れてアニメを見始める。わたしのタブレットは妹のテレビとペアリングしてあるのだ。七歳たちは集中している。おちびさんたちは寝そうである。それを見て妹の友人が言う。トモコさん、相変わらずすごい腕前です。伯母力に磨きがかかってる。

 わたし自身は子を持たない人生を選んだ。それはそれとして子どもは好きである。見ていておもしろいと思う。そのために積極的によその子の相手をしてきた。上の妹の結婚がとても早く、もう子ども向けのパーティには来ない十五歳の甥がいる。すなわちわたしの伯母歴は十五年。下の妹の子や親しい友人の子にも定期的に会っているから、カメラロールはよその子だらけだ。バブバブから小学生までどんとこいである。
 一度に複数の子どもを相手にするにはこつがある。まじめな人はひとりひとりに真剣に応対してしまうし、子どもの言うことをそのまま受け取って律儀に会話を続けてしまう。そうすると残りの子の相手ができない。てきとうにあちこちに相槌を打ちながら集団としての方向性をつけ、しばらく飽きずにできる遊びに誘導することが肝要である。そうすれば子ども同士で遊びはじめるので、大人が食事や飲酒に集中できる。もちろん、がっちり遊んであげるときの手札もたくさんあるし、様子を見て一人の話をしっかり聞くこともある。
 わたしのそういうスキルを、人は伯母力と呼ぶ。わたしが女で甥姪が妹たちの子だから伯母力だが、叔母力、伯父力、叔父力というのもこの世にはあろう。
 わたしは思うのだが、世の親御さんは赤の他人の「おばおじ力」をもっと使ったほうがいい。子どもはたいてい、たまに会ってかまってくれる大人を好きである。そしてその相手をするのが好きな大人もけっこういるものである。わたしなんかは相手する子が自分と血がつながっていなくてもまったくかまわない。たまによその子どもをかまうのは、わたしにとっては娯楽のひとつ、趣味のひとつなのである。

 子どもたちがアニメを見終える。妹が時計を見る。そろそろデザートの時間だ。わたしは準備してきたパフェセットを出す。切り落としのカステラ、カットフルーツ、アイスクリーム二種、ホイップクリーム、ミニクッキー、チョコスプレー、アラザン、そして脚つきのプラスティックのグラス(子どもは脚つきグラスが好きである)。
 何かを察した子どもたちが、呼ぶまでもなくやってくる。好きなのを好きなだけ入れるんだよ、とわたしは言う。飾りつけも好きにやろう。
 ぼく、ピンクがいい! ひとりがそう叫ぶ。わたしはこたえる。ピンクのお星さまのクッキーは全員分ありまーす。
 子どもにパフェを作らせると個性が出ておもしろい。それにケーキよりずっと安く上げられます。お試しあれ。