こいつ俺のこと好きだな。そう思っている男はどうしてこんなに苛立たしいのだろう。彼女はそのように思う。にっこりと笑う。男は彼女のその笑顔の二割引きの笑顔を寄越す。優越感。好かれているということがどうしてそんなにも彼らを得意にさせるのか彼女に…

第二こじま荘は駅と駅のあいだにあって、どちらから行っても十分ちょっとかかった。平屋と二階建てばかりの下町の路地のどん詰まりにあって、横が駐車場だったから、第二こじま荘の二階はやけに日当たりが良くって、ベランダのない鉄枠の窓が光っていた。 第…

建物の入り口に鍵をさす。エレベータを待つ。鍵は手に持ったままだ。金属がざわざわと皮膚を粟だたせるように思われる。タイツの生地がその下の皮膚に無数の非常に小さい傷をつけているように思われる。からだじゅうの皮膚に細かい細かい凹凸がつきついに人…

職場の忘年会でたまたま隣に座った男が言う。お正月は帰省するんでしょ、どこでしたっけ。ほんとうは不愉快な質問だけれども、もう慣れているから表情どころか内面もほとんど動かない。東京ですと彼女はこたえる。別の誰かが言う。じゃあすぐ帰れるじゃない…

延々とブログなんか書いていると、年に一回くらいの頻度で「この媒体に載せてやるから金を出せ」という趣旨のアプローチがある。投稿者の原稿を掲載する雑誌だとか、そういうのだ。そのたびに私はなんだか、うっすらと、しかし特有の、不快感を覚える。私は…