傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

境界を監視する

私たちは落ちこんでいた。早く介入していればと私は言った。それは無理でしたよと林さんが言った。もっと遅れていたかもしれないんですからと石塚さんが言った。これでよかったんですと橋本さんが言った。そうしてうつむいた。私たちは誰も、いいことをした…

自分を探せない

はあ?もう一回説明してくんない?は?それ本気で言ってんの?違う?違うって何が? 部下を問い詰めるときの渡辺さんの物言いにはある種の人間に共通する特徴があった。まず蔑みの感情をこめたメッセージを発する。「はあ?」というのがその代表だ。私の席か…

ふらんすはあまりに遠し

そんなの四ツ股のばちがあたったんですよと誰かが言った。カトウくんはそちらを振りかえって声を出して笑った。なに?四人?同時に?まじで?とシライシさんがたたみかけ、まじっすとカトウくんでない誰かがこたえる。シライシさんはつくづくとカトウくんの…

周回遅れの証拠

現代の厄年なんじゃないと誰かが言った。その場に集まった人々の外見は無軌道に異なっていた。ふだんは接点のない者同士で、ただみんな本が好きなので、本の話をしようとして来たのだった。それぞれが初対面であったり、そうでなかったりした。 そうして誰か…