傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2013-11-01から1ヶ月間の記事一覧

歴史をあけわたす

そうそう、このあいだフジモリさんからFacebookの申請が来てねえ、びっくりしたよ。私がそう言うと彼女はちょっと眉をあげて首をかしげた。フジモリさん、と私はゆっくり繰りかえし、発音しながら首の後ろのある部分がちりりと痺れたことを自覚する。そこは…

正しい愛

抜栓する夫の手つきを彼女は好きだった。だからほほえんでそれを見ていた。彼は彼女のグラスとそれから自分のグラスの前でボトルを傾けた。ありがとうと彼女は言った。夫は上機嫌で彼女も同じくらい機嫌がよかった。それは久しぶりに彼らの双方が翌日に仕事…

透明な欲望を汲みだす

かれしが、と彼女は言う。新しい彼氏、と私は訊く。彼女はこっくりうなずく。以前つきあっていた男の子と別れてだいぶたつので、よかったねえと私は言う。あんまりしょっちゅう恋人をつくるタイプではないのだ。この若い友人にはほとんど必ずいつも薄い不安…

透明な要求を捨てる

癒されるねえ、と彼は言う。なにそれと彼女は訊く。なにって、つまり己の身の裡の回復が亢進し快いですね、という意味です。彼はそのように説明し彼女はからだの半分で寝返って皮膚でもって壁の温度を吸う。視界を走査する。たっぷり泳いだあとのシャワーの…