傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2016-10-01から1ヶ月間の記事一覧

あなたに話しかける資格

これは、仕事ですか。 いい質問ですね。僕は仕事ではないと思っています。あなたは? わたしはわかりませんでした。言わずもがなでなんとなくお酒の席にいるのもいやでした。だから訊きました。 当然の質問です、「このあと時間ありますか」って訊いたの、僕…

邪悪

子の保護者と思われる女性が子の髪をつかみ強く揺さぶった。あんたは、あんたは、と女性は叫んだ。比較的すいた、平日昼間の電車のなかでのことだった。車内には私をふくめ、仕事中の移動と思われる格好をした大人、学生らしき若者、老夫婦などがいた。全員…

琥珀を削る仕事

学生時代にときどき、出版前の原稿に赤ペンを入れるアルバイトをしていた。最初は誤字脱字の修正を頼まれて、そのうち用語の統一や読みやすさに関する提案も入れるようになった。自分の専門に近い(いかにも売れなさそうな)書籍について、誤字脱字の修正を…

大人になれば世界は

目を閉じて、ひらいて、そうして同じものが見えることを、いつも不思議に思っていた。世界がなくなっていない。それはとてもおかしなことであるように思われた。私にとって世界は、またたきのあいだに反転していてもおかしくはないような、あやういものだっ…