傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧

るみ子のバカンス

るみ子は優雅な、あるいは優雅に振る舞うことに注力する女である。バカンスは三ヶ月あるのが普通よ、と彼女は言う。それは今時だいぶ難しいんです、とわたしは言う。この夏は一ヶ月少々、そして秋に一ヶ月少々ではいかがでしょう。るみ子はわずかな表情と仕…

偶然をもてなす

勤務先から一年間の研修への応募を提案された。 そういう制度があることは知っていた。通常業務を一年休んで修行してくるのである。年長のえらい人から、自分も一年間勉強してとてもいい経験になったと聞かされたこともある。しかし、わたしが転職してきて以…

「男」と孤独とアルコール

会議中に倒れて「死んでもおかしくなかった」という上司が早々に酒を飲みはじめたので、わたしたち部下は困惑し、隣の部署の課長に時間をもらった。この人は上司の同期で近しい間柄だと聞いている。 あの人が飲みに行くぞって言うたびにハラハラするんで。一…

だって他人だもん

上司がビールを注文した。わたしは咄嗟に目を伏せ、その目を左右に泳がせた。隣の後輩とがっちり目が合った。彼もまた目を伏せてそれを泳がせていたのである。 今日は会社の近くで飲んでいた。わたしは様子を見て一次会でおいとました。駅に向かって歩き出す…