傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2010-10-01から1ヶ月間の記事一覧

腐敗のための待機

いい人いないのと訊くと、彼女はそれまでとは異なる複雑な笑いかたをした。私たちは学生時代によく遊んでいた四人組で、久しぶりに集まってささやかな旅行に出ていた。 ホテルの部屋をふたつ取り、夜はその片方に集まった。ひとりが眠いと言って自分の部屋に…

おしらせ

もうすぐこのブログのiPhoneアプリが公開されます。 アプリ開発は@kataxさん、グラフィックや組版などデザインは@t_ayayayaさんの手になります。 twitterでアプリに収録する記事はなにがいいか伺って、それをもとに五十編を選びました。 収録分は修正し、一…

雨ともだちと私

雨すごいですね。いま会社なんですけど、窓の外が世界の終わりみたいですてきです。 メールを書いて送信してしばらく手を動かしていると返信があった。僕もまだ会社です。まったくゴージャスな夜。もうちょっと保ってくれるといいんですが。 その後、雨はし…

私の愛する単純作業

外は強い雨だった。コンビニに行くとずぶぬれになっちゃうから買い置きのカップ麺で済ませるよ、と私は言った。私も抽斗にカロリーメイト入ってるんでだいじょうぶです、と彼女は言った。彼がとても悲しそうな顔になったので私は彼に余っていたカップ麺をあ…

身体を取りもどす手順

手放した扉が閉じる音がして、彼女はそれにもたれかかった。頭がしびれるような停止の感覚があり、背中が扉を擦って滑り落ちる感触があった。触覚は一秒の何分の一かごとに遠ざかり、彼女はおなじみの感覚、世界から柔らかく厚い皮膜で隔てられているような…