傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

大人になったみいちゃん

 議事録を書くためにリモート会議の録画を再生すると、母の声がした。
 もちろんそれはわたしの声だ。ふだん自分が聞いている自分の声は、人が聞いているのと同じ音ではない。頭の中でこもって反響した音がまじった声なのだ。わたしが思うわたしの声はだから、わたししか知らない。みんなにとって、わたしの声は母の声と同じものだ。
 わたしは録画を停止する。それからふたたび再生する。大丈夫、これはわたしの声だ。少し聞き慣れないけれど、たしかにわたしの声だ。わたしが話したことを話していて、わたしの顔についたわたしの口を動かしている。大丈夫だ。
 そう思う。

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