傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2025-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ロマンティックの適齢期

友人がやって来る。店の入り口でわたしを探す。わたしは軽く手を挙げる。それから、お花、と思う。友人の背景にお花が飛んでいる。そんなふうな感じがする。昔の少女マンガみたいに。そもそも、待ち合わせのためのメッセージの文体が変わっていた。 これはあ…

彼女の最後の言語

大伯母が英語を話さなくなった。 彼女のことを知らない人に話すときには「大伯母」と言うが、そんな機会は滅多になく、だから僕はそう口にするたび、「そうかこの人は大伯母だったのだよな」などと思う。彼女は親戚のあいだで「ジェシカ」と呼ばれている。僕…

放浪の種をのんで生まれてきたの

人生で十一回目の引っ越しをした。ずっと賃貸で暮らしてきたが、このたびは分譲マンションである。すぐに売るのも損なので、十二回目の引っ越しはだいぶ先になりそうだ。子どもが独立する十年後くらいかな、と思う。 本当にそんなに長く一つところに住めるか…

なんてむごいことを

この時期は調子が悪くなるんです。 ええ、あの日は、こういう暑い日だったんです。 わたし、いいように利用されましてね。好意をかさに着て、人を利用する人間っているじゃないですか。そういうタイプに、してやられたんです。 ああ、いえ、わたしの当時の行…

カネを払うから原始人でいさせてくれないか

服が嫌いである。 ファッションが嫌いなのではない。着るものを選ぶのは楽しいことだと思う。買い物も楽しむ。しかしその頻度は、おそらく非常識なまでに低い。 正確に言うなら、長時間にわたって服を着ている状態が嫌いなのである。 職場で許容される範囲の…