傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2025-04-01から1ヶ月間の記事一覧

首に値札がついていない場所

いつも首から値札を下げて生きていると思っています。 わたしがそう言うと先輩はわたしの語尾が消える前に口をあけ、それから閉じ、わたしが首をかしげて待っていると、もう一度ひらいた。そうして、この業界にいるからかねえ、と言った。 わたしたちの業界…

わたしたちは誰になら触れられてもいいのか

美容院ではよく眠る。 熟睡すると首ががくっとなって危険なので、うとうとする程度ではある。眠りの海の砂浜にいちばん近い浅瀬までしか行かないのだが、それでも店に居る時間が三十分程度に感じるくらい、よく寝ている。カラー剤を浸透させている間は遠慮な…

幼さと恋愛

こないだマッチングアプリを入れてみたんだけど、人がいっぱいいてびっくりちゃった。うんそう、男性と出会うやつ。 友人が言う。わたしは驚く。 この人は二十五で結婚して二十七で離婚して、それから二十年、少なくともわたしに対しては、色恋の話もパート…

居心地の良い王国

Kは忙しい。Kは十歳のふたごの母親である。フルタイムの職を持ち、家事子育ては結婚相手と等分におこない、多くの友人と定期的な会合を持ち、かねてより「少なくとも年二回は家族とじゃない、友だち同士での旅行をしたい」と言っていた。 端的に言って無茶で…

わたしの最後の姫君

わたしの彼氏のあだ名は「姫君」である。 あだ名といっても本人に面と向かって呼ぶやつではない。友人たちとの会話で彼をさして使うニックネームである。三年前、わたしが彼と出会ったころ、彼が仕事の都合と裕福さにまかせて移動に車ばかり使っており、わた…