傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

あなたはこうしてキモくなる

 人間関係におけるキモさというのは、僕が思うに、舐めながら期待しているときに生じるんです。なんていうのかな、「この程度の相手であれば、自分をよく扱うだろう」という感じ。好意が発生するときにはしばしば期待がともなうものだけど、そこに相手を見下げた感覚とか、所有感みたいなのが入ると、一気にキモくなるんです。

 僕、モテるんですよ。こう見えて、実はすごくモテるんです。なんでだかわかりますか。「ちょうどいい」からです。それで、誰にモテるかっていうと、自信がないんだけどいつか誰かが自分だけの良さを認めてくれると思ってる女の子にモテるんです。自分だけの良さって、何かっていうと、別にないんです。具体的にはとくにない。あってはいけない。なぜかというと、それは自分を好きになった男が見いだすべきブラックボックスだからです。自分の長所を自覚すると、他人と比べたときにたいした長所じゃないってわかっちゃいますからね。彼女たちはただ「わたしなりに懸命に」生きるわけです。そして僕を好きになる。この人は自分を見いだすんじゃないかって思う。わかりますか、そういう期待をぶつけられる側が感じるキモさを。わかってもらえますか、このキモさを。恐怖に近いキモさを。

 女性たちに「自分を下げろ」「相手にとってちょうどいい女であれ」っていう声、ありますよね。あれはキモい。そして俺にはあのキモさの正体がわかる。単に異性に優越感を感じさせろという話じゃないんです、あれは。「無根拠な期待を煽れ」「その上で相手に自分を見下させて、安心させろ」という意味なんです。煽る期待の中身は、期待してる本人もわかってない。わかってたらいけないんです。せいぜい「この人とつきあうのかも」くらいじゃないと。

 つきあうって、何だよ、って思いませんか。俺は思う。その中身を決めてから手に入れるべく交渉すりゃあいい。でも彼女たちは決めない。決めるのはいやなんです。せいぜい「誠実なお付き合い」「結婚もあるかも」くらい。薄ぼんやりしてて、意思じゃなくて「そうなるのかな」っていう感覚。主語が自分じゃない。なぜかっていうと、責任を取りたくないから。誰かに決めてほしいんだ。キモさの一番のポイントはこれです。決めないであいまいに、でも強烈に、期待している。

 自信がないくせに他人に期待するなよ。そう思いませんか。自信がないんだったら、他人にも期待できないだろうに。何でそういう認識になるんだ。

 ああ、そうか、「自信満々で主体的な女」は「望ましい女」じゃないから、「自信がない」をキープするわけか。なるほどね。男なら「自信満々に相手を見下しながら、自分を持ち上げてくれるのを期待する」と思うのはまあよくあることで、普通にキモい。でもそのキモさはわかりやすいから、キモ度が低いんですかね。それとも俺が男だから男のキモさが相対的に低く感じられるんですかね。

 いやあ、でも、キモい男も、いるな。言われてみればいる。います。「自分程度であっても、こいつなら」と思って口説きにかかるみたいな男、いる。あのキモさは「ちょうどいい」的な期待をしている女たちと同じだな。色恋はじゃあ、関係ないのかな。えっと、ちょっとは関係ありますよね、自分がその気になってない相手からの色恋の気配は、それなりにかなりキモい。でもそれだけならたいしたキモさじゃないんだよなあ。見下しと期待ですよ、やっぱり、キモポイントは。そいつらはさあ、断ると怒るんだよ。プライドが傷つけられるんだよ。幼児がゲームに負けた時みたいにさあ。俺なら、振られたときは悲しい。おいおい泣く。自分キモいって思う。くやしくもなる。でも怒りはしないです。だってしょうがねえから。でも彼女たちは怒る。なぜかっていうと、自分は振られる立場じゃないとどこかで思ってるからです。

 俺だって、他人を見下すことはあります。ていうか、よく見下す。でもそれは俺の基準で見下してるだけだから、俺の勝手なんです。嫌いとか軽蔑するとか、そもそも関心を持たないとか、そういうのは、俺の勝手じゃないですか。でも、キモい女の子って、ああ、男もか、キモい人たちって、なんか薄ぼんやりした階級意識みたいなの持ってません? 俺はどうもそんな気がするんだ。薄ぼんやりしてるのに強固なまぼろしカーストを持ってるんだ。つまんねえ中学生みたいなさあ。わかります? その階級意識で「同じ階級のちょうどいいもの」を選択してて、それが俺なんです。だからキモいんだよ。てめえの中のわけわかんない階級を押しつけるなっていう話ですよ。