傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2017-08-01から1ヶ月間の記事一覧

恐がりやの悪徳

手術か経過観察かを選ぶことになります、と医師は告げた。よし、手術しよう、とわたしは思った。経過観察という状態はどうも性に合わない。さっさとかっさばいて取ってすっきりしたい。少々のリスクや傷跡は、まあしかたのないことである。死ぬ可能性はいつ…

可能性を燃やす

わたしたちはずっと夫婦ふたりで暮らしている。学生時代からのありふれたつきあいで、双方が二十七になる年に結婚した。わたしは子どもを産んでも仕事を辞めるつもりはなかったし、夫もそれに同意していた。わたしたちはそれぞれ、一人で暮らすぶんには問題…

堆積する鎧

お盆の東京は寂しくて好きだ。みんなどこか楽しいところ、美しいところへ行ったのだ、と思う。よかったなあ、と思う。もちろんどこへも行かない人もいる。私もそうだし、これから尋ねる友人もそのひとりだ。 彼女は夫と娘の三人暮らしだ。お盆のあいだ、夫は…

眠り熊クラブ

寝床を貸している。 一昨年、ベッドを新調した。一人暮らしのちいさな寝室いっぱいにダブルサイズを置いている。わたしは眠るのに苦労するたちで、何時に就寝しても平日は朝五時に目が覚めてしまう。なんなら休日にも覚めてしまう。そうして仕事でしばしば終…

生き物を拾う

少しさみしくなって人を拾った。 わたしの家は小さな二階建てで、一階は元工場である。若いころに相続して少しリフォームした。ふだんは二階に住んでいる。一階にはピアノがあり、犬がいる。そこでも暮らせないこともない。だからわたしは拾いたい人にこう言…