傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2013-06-01から1ヶ月間の記事一覧

いっちゃんとミーコの場合

電話とか返信とかしなくて、いいんですか。そう尋ねると、いいのいいのと彼女はこたえて、どことなくチョコレートとナッツの匂いのする赤いワインをすいすい飲んでいる。年上の女の人にお酒を飲もうと連れ出されるときにいつもそうであるように私は、なんだ…

そして戦争は続く

こんばんは。はいこんばんは。その後いかがですか、おげんきですか。つつがなくやっておりますよ、ところで、もうかけてこないんじゃなかったの。まあそう言わずに、実は新しい仕事が決まったんだ、それでみんなにかけてる。あらまあそれはおめでとう、よか…

どうしてあなたは死ななくていいのか

そのとき彼は動かなかったし、なんにも言いやしなかった。けれども彼はあきらかにどうかしていて、そのことは幾人かの人には自明だった。会議の途中の休み時間で、コールバックしたばかりと思われる電話を、彼は手にしたままだった。誰かが私とあとひとりに…

合理と天使

入社二年目の社員に自作のマニュアルを渡したらひどく喜んで何度もお礼を言うので、私でなくって古賀さんに言ってくださいとこたえた。その人がこれ作ったんですかと訊くので、マニュアルを作ったんじゃないですけど、と私はこたえる。古賀さんは私がたとえ…