傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2013-02-01から1ヶ月間の記事一覧

あなたの高貴な仕事

フロアのちがう部署に電話をかけると、なんだかずいぶん長いこと呼び出し音が鳴っていた。知っている声が出て、わあ、マキノさん、と言う。顔見知りの、すれ違うと用がなくてもにこにこして近寄ってきて他愛ない話を少しだけしていくような、可愛い人だった…

だめって言って

後輩はかぶと虫を観察する小学生のようにしげしげと私をながめ、マキノさんが弱ってる、とつぶやいた。なぜわかると問うと、しおらしい、と即答する。憎たらしい。 実際のところ私は弱っていた。最終局面でひっくり返された仕事のかたまりを目の前にしてすべ…

はちみつの灯りをともす

ごめん今日は飲めない、というメールを受け取って、また今度ねと私は返信する。飲めないのは酒とかコーヒーだけだと返信が返ってくる。だから行く。妊娠、と反射的に思って相手が男性であることを私は思い出す。体調の悪い人を酒場に連れていくものじゃない…

受動態の顛末

快適であることを、彼はひどく重視する。それだから一緒にいる人間にも快適を与えるべく努力する。職場の仲間たち、ときどき会う親族、一時期会う女たち。彼らにはそれぞれ固有の需要があり、彼はそれを推定する。そのうち可能ないくつかを満たす。満たせな…