傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2017-03-01から1ヶ月間の記事一覧

ピーマンの焼きびたしの作りかた

ピーマンのあれを作りたい、とぼくは言う。あれって、と妻は訊く。あたりまえだ。質問が具体性を欠く。ぼくは反省しながら質問をおぎなう。つまり、ぼくは、時々きみが作るピーマンの、ピーマンだけの、あれを作りたい。苦みが残ってて、なんだか甘いやつ。 …

義務と娯楽

お疲れ、と言う。つかれた、と彼女は言う。教科書どおりの膝下の礼服を着て二重のパールのネックレスをさげ(一重でないのは弔事でなく慶事であるというコードのひとつだ)、よく見れば生け花としてはやや前衛的に配した生花を胸につけている。 そのコサージ…

彼女の失敗した結婚

わたしの結婚はねえ、と彼女は言った。失敗だったわよ。なくてもよかったものだったのよ。仕事だってそう。わたしはちょっと美容院をやって景気のいいときに土地を転がしただけよ。かれはかれにしかできない仕事をしたから、わたしよりはましね、でもたいし…

人格の責任

名家というのが今どきあるかは知らないけれども、歴史と伝統と家業と土地と財産のある家なら知っている。知っているというか、わたしのクライアントに複数そういう家がある。わたしは出入りの業者のようなもので、ただしその出入りは不定期だ。 本家だの分家…