傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

「ふまじめな叔母さん」という役回り

いとこがJICAに落ちてさあ、と彼女は言った。彼女の年下のいとこが就職活動をやめて青年海外協力隊に申し込んだものの、入れなかったのだという。
しばらくそのいとこの話を聞いたら、もう全開で自分探しをしている感じだったので、私は、「ものの本によると、自分探し系の若者を相手にしたビジネスも多いみたいだから、気をつけてあげてね」と進言した。
彼女は、でもどうやって気をつければいいのよ、ともっともなことを言った。年の離れた妹みたいで、昔から可愛がってたけど、所詮はいとこなのであって、生活を見張ることもできなければ、しょっちゅうお説教ができるわけでもない、という。
「そういう、ちょっと離れた立場だからこそ果たせる役回りがあるんじゃないかな」
と私は言った。
「自分探しとかにはまる人って、だいたいすごくまじめなんだって。まじめに将来を考えて、自分のしたいことを探そうとか思っちゃう。でもそんなのそうそう見つかるわけないよね。そんな運命みたいなものが、みんなにプレゼントされるわけじゃないもの。食べていかなきゃいけないからまあ働くか、くらいでいいんだけど、へんにまじめな子には、それができない」
彼女は、そうなんだよねー、とため息をついた。学校出るときに適当な業界を選んだだけだけど、今は意外と楽しいもんね。
「それで両親もまじめ、きょうだいもまじめ、友だちもまじめだと、もうどうしようもない。ふまじめな人に接して、違う感覚をとりいれたらいいんじゃないかと思う。出番だよ、あなたの」
彼女はいささか不満そうに、私、まじめだよ、と言う。彼女には、たしかに彼女の基準にのっとったまじめさがあるけれども、その基準はあくまでも彼女独自のものであり、生活態度や人間関係の作法、服装などは、あまりコンサバティブとはいえない。
「まあ聞いてよ。昔の小説を読むと、そういうときには、親戚中から困ったやつだと思われている道楽者の叔父さんが出てきて、行き詰まった子に示唆を与えることになってる」
彼女は小説なんかに興味はないので、へえ、と言った。へえ、そうなんだ。
「うん、そう。まじめな子って、よくわかんない理想とか規範意識とか見栄とかでがんじがらめになってるんだよね。そこでろくでもない叔父さんを見て、なんかほっと一息つくわけ。現代の小説になると、その女の人バージョンがあって、ふまじめな叔母さんが出てくる。いつまでたっても落ちつかないで好き勝手やってる叔母さんね。親よりはだいぶ若いんだけど、ちゃんと大人なの。そして四角四面な女の子にある種の救いをもたらす」
彼女は目をぴかぴか光らせて、うんうん、とうなずいた。
「あなたにぴったりの役回りだよ、がんばれ。私もこの世界のどこかにいるきまじめな姪っ子のために、ふまじめな叔母さんとしてがんばる」
彼女は、おう、まかしとき、と胸をはった。じつに楽しい人だ。いとこはボランティアなんかあとにして、彼女と遊びにいけばいいのに、と思う。