傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2019-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ユキコはいい子、いつも、ずっと

ユキコはまじめな女の子だった。わたしたちは中学生で、同じ塾に通っていた。保護者が熱心に勉強させている家庭の子が行くたぐいの塾で、入塾試験が難しいと評判だった。わたしは間違って入ってしまったみたいな感じで、いつもびりに近かった。ユキコは精鋭…

シンデレラボーイの妻

夫のことをよく知らない。 夫と知り合って十五年、結婚して十二年になる。わたしは夫の仕事の内容や給与や日常のルーティンや食べ物の好みを知っている。何に対してセンシティブで何について無関心かだいだい把握している。暇になるとすることのパターンもわ…

送り盆の日

ときどき、自分の頭に不満を持つ。私が考えたいこと、覚えていたいこと、想像したいことに脳が追いつかないときに、不満を持つ。頭が悪い、と思う。誰と比べて、というのではない。私の欲望に対して、私の頭が、悪い。 夜の夢はあまり見ない。年に何度か、ほ…

可愛いだけが取り柄でしょ

犬を飼おうと思う。 わたしがそのように言うと彼は首を曲げてこちらを見たあと、ゆっくりと元に戻した。そうして、いいんじゃないですか、と言った。この人が敬語を使うのは、わたしに何かを言い聞かせたいときと、もっと突っ込んで聞いてほしいときである。…

お知らせ

2011年に出した電子書籍アプリが仕様変更で利用できなくなりました。そこで、このアプリのために書き下ろした短編をnoteで公開しました。偶然を贈る|槙野さやか @kasa_sora|note(ノート)https://note.mu/kasa_sora/n/n633dddd15a3e

親密さの設計

二十歳のとき、「作戦を立てずに生きていたらいずれ人間関係がなくなるな」と思った。わたしは基本的にひとりでいたかった。自分の家族を持つにしてもひとりでいる時間はほしいと思った。昔の村社会みたいなところに所属するのはいやだった。でも完全にひと…