傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2017-01-01から1ヶ月間の記事一覧

飛行機とサンダル

取引先での会議がいつになく長引いた。彼は腕時計の盤面を視界の端でとらえ、直帰、と思う。よく来る場所だから、道はもう覚えていて、通り道も固定されつつあった。でも、と彼は思う。今日は、帰ってすぐ寝るような時刻でもないから、ちょっとうろうろしよ…

つまらない顔

年に一回、化粧品を買う。毎日きちんと化粧をするのではないから、スキンケアと日焼け止めと粉は買い足すけれども、色を塗るものは一年保つし、なんなら余る。なにごとにも流行はあり、最新の、とは言わないけれども、年に一度、簡易なメイクとフルメイクを…

明るい人の明るい理由

あけましておめでとうございます。あ、アウトだ、これ。 渡部さんがそう言い、私はあいまいに笑う。視界に入っている他の二人も、おそらく同じような表情をしている。私たちは社内読書部(会社非公式。活動内容・ときどき都合のついた者が集まってランチ会ま…

背泳ぎができるようになった話

背泳ぎができないと思っていた。 十九のとき、つきあいでプールに行ったら、予想に反してひどく楽しかった。すぐに競泳水着を買い(つきあいで行ったプールではひらひらしたのがついたセパレートの水着を着たのだけれど、本気で泳ぐためのものではないことは…

アレルギーかもしれないので

乾燥ですね。医師はそう言い、わたしは、はあ、とはい、の中間くらいの声を出す。それから尋ねる。病気じゃあないでしょうか。アレルギーとか。アレルギーはありえます、と医師は言う。とくに、職場や住居など、よく身を置く環境が変わって皮膚にこういう、…