傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2016-05-01から1ヶ月間の記事一覧

「普通」審判への異議申し立て

マキノさんのとこは女子が優秀だよね。あー、成果出てますよね。やっぱりリーダーが女の人だとやりやすいのか。うちの会社もね、もっと増えるといいですよね、あとに続いてくれると、うん。ええ、たしかに。ねえ。あとは彼、ほら、二年目の。山田くんか。そ…

犬は老いても撫でれば喜ぶ

いいよ、と彼は言う。苦笑している。子どもじゃないんだから。彼女は適切な返事を思いつかず、あいまいに笑う。手の位置なんて、ふだんは意識しない。だからすこし困って、だらりと垂らした。子はちかごろ夜に起きることがない。うちの子はもう赤ちゃんじゃ…

目明きの恋

彼、才能ないから。友だちが言い切って、私はははあ、とへんな声を出す。それからなんとなく左右を見る。どうしたのと彼女が言う。私はもぞもぞと訊きかえす。いや、なんていうか、あなた、彼のこと、好きなんだよね。彼女はうなずき、それから眉を上げて言…

私のためにほほえまないで

職場の上長は有能であってほしい。それはもちろんのことだけれども、恐れ戦くほど有能じゃなくてもいい、私は思う。有能さと機嫌のよさの総計が高いほうがいい。どんなに有能でもやたらと不機嫌な、情緒の安定していない人のもとでは働きにくい。そう考える…

泣き虫、けむし

いつも笑われていた。だから物心ついたときには、隠すことに力をそそいだ。誰にも見られないところで、ひとりきりで、這いつくばって手早く済ませる。僕は早くから、そうしなければならないことを知っていた。嘲笑の要因をなくすことはできなくても、隠す技…