傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2014-09-01から1ヶ月間の記事一覧

とくに理由もなくふといやになって連絡もなしに消えていく権利をあなたに付与しよう

彼は言う。彼女はなんとなし天井を見る。古い古い天井扇が回転している。あんなにゆっくりで空気の循環に寄与しているのかしらと見るたびに思う。日本ではあまり見ない。ことにこんなに古くてそのうち落ちてきそうなものは。彼女は彼を見る。彼はコーヒーを…

だめになった女の子

実名で登録するSNSは登録したきりでほとんど使っていなかった。けれども最近、年賀状を出しているかと尋ねられ、いいえと答えたらせめて実名SNSをやれと言われた。あれは年賀状である、と。なるほどと思った。省力化され年に何度出してもよく出さなくてもよ…

ありがとうの魔法

息を吸う。いつのころからか彼女の肺は適切な呼吸の量がわからない。短く不規則な呼吸をふたつみっつする。顔をあげる。ありがとうと言う。夫はほほえむ。多大な労力をかけてベッドから引きずりだした身体をどうにか椅子の上に据え置く。嵩張るばかりで価値…

あなたに合わせた壊れかた

友人とその夫が改札前に立つ私を見つける。私は友人を見る。息をのむ。もともと小さく華奢で、けれどもこんな、頬骨が透けてみえる人ではなかった。ぼんやりしてほほえんで青白くって幽霊みたいだった。私は少しかがんで彼女と目をあわせ、久しぶり、と言っ…

友だちにならずに

誰かが怒鳴る。誰かが罵る。テンプレートがあってみんながそれにしたがっているみたいな、画一的な言葉遣いだった。シネ。カエレ。シネ。カエレ。シネ。シネ。シネ。シネ。私は罵倒の対象になっている友だちを見る。友人は眉を上げ、おそらく私のためにきび…