傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2014-08-01から1ヶ月間の記事一覧

他人の偽善の遇しかた

私はちいさく手を振る。彼女はタブレットに目を落としてほほえんでいる。私に気づかない。私はそっと彼女の横にまわる。突然目の前に顔を出して驚かせようとすると彼女は片眉を上げて私を見、子どもか、と冷たく言う。それからにっこりと笑う。くっきりと刻…

友だちの焼豚の話

私たちは焼豚の披露宴のはじまりを待っていた。焼豚はやきぶたともチャーシューとも読む。中学校時代の友人のあだ名で、小学生の時分からついていたという。色彩と形状で呼び名が決まるのがいかにも子どもらしく、けれども大人になっても彼は豚と呼ばれてい…

居残りのゆくえ

うんと年下の友人と会う約束をしていたら、かれし連れていきます、とメッセージが入った。かれしは劣化していますのでよろしく。劣化、と私は内心で繰りかえした。いやな言い回しだと思った。人間はしばしば疲弊し、かならず老化し、ときに頽落する。それを…

分母を大きくする

すこし足を伸ばして深夜営業のスーパーマーケットに寄るのが面倒だった。頭のなかにアスパラガスとトマトとバターと白身魚の姿がよぎる。面倒だったから無視して買い置きのレトルトカレーで済ませる。シャワーを浴びていてシャンプーとコンディショナー、石…