傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2014-07-01から1ヶ月間の記事一覧

メサイアの引退

ちかごろはかわいそうな女の子の話はないの。尋ねると彼は視線を少し天井に向け、それを皿の上に落とし、軽く揚げた岩牡蠣を切断しながらこたえる。ないねえ。珍しいと私はつぶやく。この人はまだ半ば少年であるような年齢のころから断続的にそのような相手…

箸三膳分の愛

夜中まで作業が続きそうなのでオフィスグリコにコインを落としてカップ麺を手に入れる。その場でばりばりパッケージを破いて、据え置きのポットからお湯を注ぐ。ジャンクフードのにおいをくんくんとかぐ。にんまりと笑う。それから気づく。割り箸がない。コ…

あなたの百の繰りかえし

マキノって電話かけるとだいたい出るよね、暇なの。うん暇なの、それで本日はどのような話題で私の暇をつぶしてくださるのかしら。待て、その言かただと気の毒な暇人のマキノが王さまで俺がお抱えピエロみたいな感じするからやめろ。 新しい彼女の話かな。そ…

オツベルを捨てる

私はみんなを見渡す。みんなこぎれいな格好をして適度に酔ってほぐれ適切な範囲で高揚した声をあげている。適応、と私は思う。私たちはバランスのとれた大人でどこも破綻していない。同じように集まって楽しんでいても学生時代ならそれぞれのほころびがちら…

かぐや姫は帰らない

それでどうするのと、結果をほとんどわかっていながら訊く。彼女はあははと笑う。少しも悩んでなんかいなくて、どちらかというとちょっと苛ついている、そういう気配のはりついた、笑い。私はそのこだまとしてあんまり意味のない笑いを笑い、その残響が消え…