傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2014-02-01から1ヶ月間の記事一覧

花と毒きのこ

大学に入った年、教養の授業でテントを張って寝た。農学部が提供する集中実習で、夏休みに泊まりがけで農作業を体験して単位を得るというものだった。楽しそうだから取ってみたら女子学生は私ともうひとりしかいなかった。ガールズ、と老教授が言った。昼間…

足を踏み入れる

彼は人に気に入られるのがとてもうまい。彼は感じがいいとみんなが言う。彼は高価な輸入車を売っている。同じ立場の社員たちと比べて、おそろしくたくさん売っている。彼は車がほしい男たちに気に入られて、気持ちよく高価な買い物をしてもらう。ほとんど会…

イミテーションからの帰還

顔がちがう。そう言うと彼女は可笑しそうに、化粧だよとこたえる。まじまじと見る。やせた。重ねて訊くとそうかもしれないねえと、おとぎ話を語る老婆みたいな声を出す。質問のかわりに顔を見ていたらもう一度笑って彼女は、なにもない、と言った。どちらか…

後ろめたさへの生贄

仕事を終えて身支度しながら携帯端末を取り出すとメッセージが入っている。冬だからサーカスに行こう。藤井とのメディアを使った会話は、かたちを変えながら、もう二十年ばかり続いている。毎月食事をしているのにそのうえ何を話すのと誰かに笑って訊かれた…