傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2013-08-01から1ヶ月間の記事一覧

モンスターのための絆創膏

ホームパーティがはけるころ、彼が私の横を通り、グラスのテーブルの端に寄ったのを、手を伸ばして内側に動かす。おとうさんのしぐさ、と私は言う。小さい子が落とさないようにしている。彼はちょっとうつむいて、マキノは三歳じゃないのにな、と言う。たぶ…

花火のあとで

おねえちゃん、今日はなにができるの。家主が訊くとその日のシェフである彼女はひどく気前の良い笑顔で、なんでも、と言った。なあんでもできるよ。わあ、どうしよう、と家主は言って、うれしそうに笑った。私と同い年なのに、七つの子どもの母親なのに、そ…

弱者としてのレッスン

爆発の音がする。グラスを手に空の光を振りかえって、華やかな戦争みたいだ、と彼女は言う。夜になったばかりの空が赤く光り、緑色がかり、うす青く陰る。部屋の灯りは落とされ、やや過密にそこにいる私たちはたしかに、逃げて隠れているようだった。私は少…

私たちの好きな弱者

声が耳に入って反射的に振りかえる。その動作が終わるころになって知っている声だったと気づく。女は私の隣の誰もいない椅子の、その隣に座って、軽く笑い声をたてる。あの人だ、と私は思う。ずいぶんと時間が経っているけれども、間違いない、と思う。 その…