傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2013-07-01から1ヶ月間の記事一覧

開放されない生態系

お姉さんはお元気、と訊くと彼はふうとため息をつき、理不尽な過程の果てに刑罰を執行された冤罪者みたいな声で、近ごろ姉さんに醒めちゃってさ、と言った。私はひどく感銘を受け、心をこめて、異常だ、と言った。日常語ばかりで構成された短文ひとつがここ…

私を交代する

SNSでもう一人あなたを見つけたと友人が言うので、同姓同名かと訊くと、いや、男の名前、とこたえる。でもあれはあなただと言う。URLとパスワードが送られてきて、そこに入ると、私がIDを持っていないクローズドなSNSからのキャプチャと、別のオープンなソー…

良い恋人と悪い恋人

あーん、と彼は言う。きまじめな顔をして果物を食べている。桃とさくらんぼ、と彼女は思う。ピンクばかりの組み合わせだなあと思う。それを彼自身の口に運ぶよりほかに彼の手は使用されていなくて、もちろん彼女も同じだった。彼らは落ち着くべき年齢で、少…

身動きなんかとりたくなかった

ところで、ついに結婚することになったんだ。彼は晴れやかに言い、私はわあ、すごい、おめでとう、と口にしてから、声が大きすぎやしなかったかと、周囲をそうっと見渡した。それが終わらないうちに続きのせりふが届く。弟が。その報告をしたときのやつの得…

ずっと失敗していたい

落ちちゃった、と彼は言う。だいじょうぶ、と彼女は言う。彼女の体温がほんの少し上昇する。彼の職場の昇任試験が何度受験可能なのか彼女は知らない。彼も言わない。そんなことはどうでもいいとさえ、彼女は思っている。彼女はただ彼に、そのままでいてこの…