傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2013-04-01から1ヶ月間の記事一覧

贅沢な労働

憤懣やるかたないのでちらし寿司を食べたいのですが、とメールを送ると、火水金OK、とだけ返信が来た。会社の近くに評判のお鮨屋さんがあって、ランチが手頃でとっても美味しい。武田さんは軽く手を挙げ、私は軽く頭を下げる。マキノさんちょっと痩せたよう…

正解を引きあてる

髪、切ったんだね、と彼は言った。その声だけを彼女は聞いた。手元の配線と目の端のガラスの反射とその外の景色と靴の中の自分の足の汗を噴きだすようすと指に触れているものの感触が、すべて同時に、くっきりと知覚された。正解を引き当てなければならない…

感情教育とその小さな爪痕

先輩がいかにも集中力が切れたそぶりでカップを持って漠然と立っているので、コーヒー冷めますよと言うと、俺もうパワポはいい、やつには飽きた、と唐突に宣言する。私も飽きたいですと小さい声で告げると、おうおう飽きろ飽きろと言う。私は立ちあがって抗…

ジェシカおばあさんの話

彼にはすぐに彼女がわかった。彼女はひらひらしたスカートを揺らし、髪を高々と結い上げて、唇は真っ赤だった。彼の周囲にそんな色の口紅を使う女の子はいなかった。みんなもっと自然な色のを塗っている。けれども自然であることなんか、彼女にとっては少し…

ある夜の世界戦争

ごめん、急に電話して。いや、暇だから取ったので、かまわないんだけど、どうしたの、宗教、もの売り、それとも失恋? なにそれ。なにって、たいして親しくもない元同級生に電話をかける三大理由、人々に伝えたいすばらしい教えがあるか、人々に参画してもら…