傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2013-03-01から1ヶ月間の記事一覧

残滓としての病とそのための点滴

手首にメモとかするのと訊くと彼女は笑って、ああこれはね、点滴、と言った。うっすらと残ったボールペンのインクの跡。点滴、と彼女は繰りかえした。きのうちょっと具合が悪くなってね、それで点滴を打つ必要があったの。 出張から戻る途中の土曜日の改札前…

ビーバーもしくはそれに相当するもの

結婚するのだけれども、面倒なので披露宴はしない、と友人は言い、ではということで、彼女を愛する友人一同の手により、一次会なしの二次会のような場が設けられることになった。友人は人気者なのだ。 美智子がお世話になっておりますと知らない男の人が言う…

スタディ・アフェア

研修の知らせがあるとだいたい出席してるよねえ、と先輩が言う。マキノって暇なの。この先輩は先だって私のあずかる案件に突然発生した作業を夜半まで手伝ってくれた。私たちは顔を見合わせてにやりと笑い、暇なんですよと私はこたえる。いつもの仕事ばかり…

捕まえられない泥棒

待ち合わせの相手が遅れるという連絡を受けたのでコーヒーをのんで待つことにした。仕事帰りの約束にはまま起きることだ。みんなも私もそれぞれの業務を完全にコントロールすることはできないと知っているから、あんまり気にしない。私にかぎっていえば、人…