傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2012-06-01から1ヶ月間の記事一覧

くれてやる笑顔と瑣末で効果的な自尊心の折りかた

部署の中に空いたデスクがひとつあって会議室をとるほどでもないときのミーティングスペースになっている。私はそこで今ふたり組で仕事をしている相手と細かな打ち合わせをしていた。少し厄介な問題があることを相手が告げて、困りましたねと私はつぶやく。…

健康で文化的な最低限度の生活のためのスキルセット(案)

昼食を摂りながらほうれん草の冷凍のしかたについて話していると共通の知りあいが通りかかって、年ごろの男女の話題とは思われない、いいぞもっとやれ、と言って去った。私たちは大学生で、大学とアルバイト先が同じで、それぞれひとり暮らしをしていて、自…

悲鳴として悪は成される

喉の詰まる感覚をおぼえて自席を離れた。なにかがときどき彼の喉に発生するようになって数ヶ月が経つ。何を飲んでも流れないけれども儀式めいてなにかを飲む。自動販売機の前で彼は立ち止まる。梅雨冷えの空気に肌が薄く粟立ち、よく冷えた缶が飲み物に見え…

彼女の悪い趣味

彼女は彼を甘やかすのがとてもうまい。彼女は彼の安い欲望の諸相を熟知している。持ち上げて。連絡して。連絡しすぎないで。呼んだら来て。顔色を読んで。きれいにして。安心させて。優越させて。頼るそぶりをして。好ましい内容で。 彼女はそれを軽々とクリ…