傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2012-03-01から1ヶ月間の記事一覧

助けあって生きていこうよ

つきあいはいいほうだと彼は思う。なぜかといえばつきあいがいいほうが結局あんまりめんどくさくないからだ。送別会の主賓の片方が産休だと彼は知らなかった。辞めるにせよ産休育休のあとのほうが得なのかもしれないと思った。彼は家庭を持ってもおかしくは…

愛に殉じたそのあとに

里佳子さんがふたつ年上の夫と結婚して三年になる。子どもができたので退職するという。おめでたい話だ。けれど里佳子さんに限っては少なからぬ数の社員が個人的にざわついており、不審がった後輩が私のところに理由を尋ねに来るほどなのだった。彼は訊いた…

ひっくり返って腹を見せてよ

僕は犬になることにしたよと彼は言った。そうかいと私はこたえた。犬はいやなんじゃなかったの。いやだよと彼は言う。いやだけどしかたない。そうしないと、彼女はこっちを見てくれないからね。 彼は半年前から取引先の女性にひどく心を惹かれて、いろいろと…

鈴木さんがいればいいのに

槙野さんおでん食べない、と彼は言った。食べますと即答すると、彼は彼の同世代の部下にあたる社員の名前を挙げ、少し相談したいと言った。彼は目の高さでてのひらを斜めにしてそれを降ろすしぐさをしてみせながら、林原さんって、ほら、こういうところある…