傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2012-02-01から1ヶ月間の記事一覧

短時間の小規模な孤独

舐められたもんですねと同僚が言い、やっぱりそうですよね、と私はこたえる。彼は私を見て目頭に薄い皺を寄せ、いただきますと手を合わせてから味噌汁に箸を添えてひとくち飲みこみ、焼いた鯖の焦げた皮のふくらみをぱりんと割って、槙野さんって怒らないの…

だいなし病のためのセーブ・ポイント

携帯電話の文字列を見て、では会いましょうと私は書き送る。私はもうすぐ今日の仕事が終わるので、私と似たところのある若い後輩とちょっと飲もうと思います、いかがですか。少しの沈黙のあと思慮深い返信が返ってくる。いいですね。私は彼女のいる(そして…

幸福な猿と親切な猿回し

うちのポールはだめだ、なんの意外性もない。彼女がそんなふうにこぼすので私は笑う。ポールは彼女の新しい同僚で、彼女の会社が外資系の会社と吸収にかぎりなく近い合併をしたのでやってきた社員のひとりだ。ポールはアフリカ系アメリカ人で、彼女の隣の席…

彼らのアイスランドの城

彼とは久しぶりだったので、どうしてたと訊いた。稼いでたと彼はこたえた。相変わらずだねと私は言った。相変わらずじゃないと彼は言った。常に右肩上がり。じゃんじゃん稼いでる。 彼は彼自身の自己紹介を借りれば「稼ぐほうの弁護士」で、稼がないほうとい…