傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

花と花のかたち

花の咲いた公園で待ちあわせをすると、彼女は先に来ていた。そのペンダントいいね、と私は言った。よく似合ってる。
うん、これねえ、もらった、と彼女はこたえた。それからすごく不思議そうに、あのさあ男の人って仲良くなるとなんでものをくれるのかな、と言った。どうしてかな、お誕生日じゃないのに。
私はあきれて説明した。あのね、そりゃその人があなたのことを好きで、それも特別に好きで、そのことをわかってもらいたいと思ってるからだよ、誕生日まで待てなかったんだよ、なにしろあなたは一月生まれじゃないの。
彼女はほとんどなにも考えていないような、ご機嫌な顔をして、そんなのいいのに、と言った。私が仲良くしたくってしてるんだから、それだけでいいのに、それになにをくれたってなにをしたって、嫌いになったらそれでおしまいなんだから、そんなの意味ないのに。
私はかなしくなって、意味はあるよと言った。意味はあるの、変わってしまうからって存在しないわけではないの、感情というのは、それがたとえその場かぎりでしかなくても大切なものだし、それを誠実に相手に伝えようとする努力は尊重しなきゃいけないよ。私は少なくともそうしてほしいし、そうしたいと思うよ。
彼女はぷいと横を向いて、めんどくさい、と言った。やれやれと私は思った。やれやれ、桜がずいぶんときれいだ。
彼女は道に埋めこまれたブロックの、色のちがうところを飛び石のように使って進んだ。きっと残りのブロックが水で、落ちたら溺れるというルールなのだ。横断歩道にさしかかって、どうするかなと思って見ていると、しばらく考えて白線を踏んで渡った。ルールを変更したのだろう。
でもだいじょうぶ、と、はずんだ声で彼女は言った。だって私はもう三十過ぎたもの、もう年だもの、だからだいじょうぶ、おばちゃんのあとおばあちゃんになって、男の人とは関係なく生きて死ぬの。
私はふたたびあきれた。それは甘いよ、ぜんぜん甘い、年とったら枯れるなんてそんな都合の良いことがあるわけないでしょ、老人ホームで一人のおばあさんをめぐって複数のおじいさんが恋のさや当てを繰りひろげたりするんだよ、だからちゃんと理解しないとだめ、他人の好意の内実を。
彼女は大きい目をもっと大きくして私をにらみ、私はそんなおばあさんにならない、と宣言した。私は誰にも相手にされないおばさん、おばあさんになるんだ、だからいいの、男の人の言うことなんかわからなくてもいいの。
彼女があんまりかなしそうなので、私は後悔した。正しいことを言えばいいとでも思っているのか、私は。彼女はおそらく死ぬまで、お誕生日じゃないのにいいことが起きるなんてへんだなと思いつづける、かわいそうな「女の子」なのに。
ごめんね、ごめん、そうだね、おばあさんが好きなおじいさんなんかほんとにちょっとしかいないよ、おじさんもおじいさんも若い女の子が好きだよ、私たちはこれから彼らにとっての女じゃなくなって、愉快に生きることができるね、きっとそうだね。
私がそう言うと、彼女は涙目のままでうんうんとうなずいた。襟元の開いたチュニックに、花のかたちの金属。とてもよく似合っている、と私は思う。

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